土壌と家

※ネタバレあり(TVnavi SMILE vol.50、QLAP! 11月号)

 

☆ ☆ ☆

「アイドルとしての自分はもうない」

という、ドキッとする表現が出てくる。直後に「…ていうと語弊があるけど。30代半ばの自分はアーティストにならないといけない」と続く。

TVnavi SMILE vol.50、発言の一部を切り抜くと、「アイドル」という言葉について、まるで加藤シゲアキさんと増田貴久さんが真逆なことを言っているように見えるが、実はそうではない。これに限らず、今までの発言や会社の改名に対する反応にも違いがあり、特に社名に関しては陶酔度の違いのように見えなくもなかったのだが、これは定義の違いだろうというのをずっと感じていた。ただ、そのニュアンスの違いを私の頭では端的に分かつことができずにいたのが、本誌によってやっと明確にすることができたのでここに書き記すものである。

 

以下は、本誌の加藤シゲアキさんの記述を一部要約し抜粋したもの。

「抜粋」になってしまうことをどうかご容赦されたい。

 

  1. 終生アイドルとして進む人もいると思うけど自分にはアイドルだと思ったことがあまりない/”加藤シゲアキがやりたいこと”でやってきているからアイドルという枠自体もあまりわからない/自分は嵐を「アイドル」という目で見たことはなく、唯一無二のアーティスト集団だと思っている。
  2. やるって決めたから自分たちの行動は大きかったと思うけど、自分たちのクリエイティビティだけならうちの事務所じゃなくてもいい/周りのサポートや歴史などのような、クリエイティブな土壌があったからやれたこと

(TVnavi SMILE vol.50より一部要約 加藤シゲアキ

 

これらを基に過去に見聞きしたものを遡り、まず私の結論から書いておくと、

  1. 「アイドル」という言葉について、加藤さんは①いわゆる世間一般の言う、恋(欲望)の対象として振る舞うべき「アイドル」、②ステージ上で物語を見せる者、③魅力的だと思ってもらえる生き様・生き方、の3つの意味を時々で使い分けており、本誌に関しては①にあたる。(②と③は相互関係にあり、また「アーティスト」と同義であり、分けきれない部分が多い)
  2. 「ジャニーズ」について、加藤さんは土壌・風土として捉えている。一方増田貴久さんは家・アイデンティティとして捉えている。

ということになる。そう思って振り返ってみるとわかりやすいことがある。

 

1「アイドル」

上に記した3つの分類で言った場合、

②の具体例を挙げると、NEWSから2人脱退すると発表のある日の、「髑髏城の七人」を観劇した帰りのエピソード。「俺はもうああいうふうにキラキラした場所には立てないのかもしれない」「自分は何してるんだろう」という思いをしながら、その日劇場から歩いて帰ったっていうエピソード。作家になる道もあったが、敢えて沈んで沈んで、沈んだ先の自らの問いに”「でもプレイヤーとしてお芝居とかダンスもやっぱりやりたいのかもな、俺あっちに憧れたってことは」って思った”というエピソード。

 

②を内包した③の具体例は

 

「 自他共に傷つくことになっても、 その選択が正しかったと証明するべく、道を切り開く生き様を体現し続けるしかない。
あの頃、自分はそう思って、作家業という新たな挑戦とともに男性アイドルとしての矜持も離さないと誓っていた。」

(シゲアキのクラウド 2022/11/7)

 

「アイドルって、自分という物語を見せるものだと思うんです。作家としてやっていることも一緒なんですよね。だから、自分の中では既に、二足のわらじではなくなっています。僕がやりたのは、自分の人生を使って、魅力的な物語を作る、ということなんです。」
( 新潮社『波』2020年12月号)

 

などの言葉や、ラジオで言っていた

「人生をいかにエモくしていけるか」

という言葉など数多ある。↑これ、結構凄いと思った。

 

TVnavi SMILEの記述中の「アイドル」は「アーティスト」との対比がされている①の意味だろうから、永久ではないということになる。

一方、増田さんが「アイドル」を言うときはほとんどの場合がその人生そのものを示す。

「「僕が、僕で、ジャニーズっす」みたいなのがアイドルだと俺は思ってますけどね。・・・「俺」。 アイドルっていう括りで「皆アイドルでしょ」って言われるのは俺はちょっと「何わかってんの」みたいな感じになる。俺はアイドルですよ。僕はアイドル、増田貴久はアイドルですけど、「君も君もアイドルでしょ」っていう中に入れられたら、「え、お前アイドルの何わかってんの」って。アイドルっていう言葉を下に見てるっていうか、それだったら俺はちょっと「は?」ってなりますけど、でも「俺は俺で、自分はアイドルだ」みたいな。 生き方っていうか」

(2020年11月24日 Eテレ「シュガー&シュガー」)

 

よって当然に終生続くものであるから、場合によって一瞬両者が全く逆のことを言っているように見えるのだが、捉え方と考え方が違うのであって逆のことを言っているわけではないのである。

 

それでもTVnavi SMILEのインタビューは、たしかに建設的ではない。(また次の機会で書こうと思う。)一度本当に死ぬ気でやっていたからこそ、後悔を感じて、いまは周囲に誠実でいたい、今は2人のため、ファンの方のためにやると決めたからやるのだと話がつながっていく。未来に対して断定的なことを言わ(え)なくなった経緯には正直結構くらったが、10月14日発売の「QLAP!」にはこう記述もされていた。

 

妥協しないなんて当たり前、もう一段階無理して汗かいてこそ人を楽しませられるし、自分も楽しめる。命ある限り一生懸命頑張る。だから俺に置いていかれないようファンのみんなも頑張って!追い掛けがいのある人でいられるよう走っていくから

(QLAP! 11月号 加藤シゲアキ

 

 しかしね、やはり、今赤裸々に明かしてくれたその思いも経緯も含めて、あなたは相変わらずアイドルですよ、と思っている。

 

 

2土壌と家

 私は、NEWSしか知らない。「ジャニーズ事務所」というものがどんなものか知らないし、正直興味も無かった。したがって改名については特に何か強く思うこともないし、語れることもない。何も知らない者が関われないので、新社名の応募はしていない。

 ここでは改名をとおして感じた、両者の事務所の名の捉え方の違いについてのみ書いてみる。

 

加藤さん

10月3日 - X: 

加藤シゲアキ Shigeaki Kato on X: "“To exist is to change, to change is to mature, to mature is to go on creating oneself endlessly.” – Henri-Louis Bergson" / X

10月5日 - Instagram:ユーザーID末尾の「J」を「whoiam」に置き換える。

10月17日 - Instagram

www.instagram.com

 

増田さん

10月16-17日 - Instagram:日付が変わる最後の瞬間までbio欄に「ジャニーズ」を掲げ続けていた。17日に「不滅のIDOL」に切り替わる。

10月17日 - Instagram

www.instagram.com

(まずどちらも、めちゃめちゃ「らしさ」が出ていて、SNSの印象がそれまでの人物像を大きく変えなかったのは、それぞれがそれぞれの表現がうまいな、加藤さん、さすがすぎるというかニュアンスやら言葉選びが的確すぎるなどとと思いつつ、、、)

 

 増田さんは、バラエティー番組で何かが成功したシーンや見せ場で「もってるジャニーズ」を、雑誌やweb、ライブなどで「死ぬまでジャニーズの増田貴久として生きていく」「ジャニーズ事務所に所属している自分を誇りに思っている」多く口にしてきた。風当たりが強くなってきた時期のフェスでは堂々と「ジャニーズ事務所から、NEWSきました。最後までよろしくお願いします!!!」と名乗り、ジャニーズとして最後のライブでは「ジャニーズ生まれジャニーズ育ちは変わらないからな!」「ジャニーズは永久に不滅です!」と叫んだ。帰属意識がとても強く感じられる。

 一方、加藤さんはあまりジャニーズを主張する印象がない。特有のファミリー感みたいなものもあまりない。今回の件に関しても受け入れが比較して早く思える。だが、作家としての発信で自身を語るときにはそれがとても重要な要素だと述べる。つまりは

やるって決めたから自分たちの行動は大きかったと思うけど、自分たちのクリエイティビティだけならうちの事務所じゃなくてもいい/周りのサポートや歴史などのような、クリエイティブな土壌があったからやれたこと

のとおり、加藤さんがここまでやってくるのを可能にした「土壌」だということだ。

 加藤さんが「ジャニーズ」」を出した発言、それは例えば吉川英治文学新人賞受賞の会見の壇上や、著作が海外で出版されるときに海外向けに発信するインタビューなども一貫している。

 

ハッキリとした「専業」みたいな感覚は僕自身の中には無かったんです。なんでもやることが出来るのがジャニーズのタレントなんだなと。どれも僕のお仕事というか、好きなことをただやっているだけなので、どちらかの比重が大きくなるというよりは、今までときっと変わらずに、歌って踊る日があってお芝居する日があって、書く日があるだけだと思ってます。」

加藤シゲアキ 第42回吉川英治文学新人賞受賞記者会見  2021年3月2日 都内ホテルにて)

 

「小説を書く上で大切なことはいくつかありますが、その1つが様々な経験をすることです。私はジャニーズという環境で歌って踊って色々なお芝居をして、バラエティ番組に出て、色々なものを食べて、そういった経験が合わさって作品の素となります。経験はインクと紙となり、この有益な経験を文章にすることでタレントとしてほかの活動に真剣に向き合うことができます。私にとって小説を書くこととジャニーズのタレントであることは、私というコインの、どちらも非常に大切な2つの側面なのです。」

NEWS’ Shigeaki Kato on Alternate’s Indonesian release and bridging 2023年8月16日)

 

「ジャニーズであることを自分のアイデンティティにしている人はたくさんいて、それはそれでかっこいいなと思うんですけど、僕の場合は「そっかそっか、そういえばジャニーズだった」と思う瞬間が年に何回もありますね。

自分の感覚としては、なんでもやれるから僕はジャニーズに入ったんですよね。小説の仕事もやらせてくれたし、バラエティに出たり、歌だったりドラマだったりとか、いろんなことができるからいるだけなんですよ。」

SPECIAL対談 ◆ 加藤シゲアキ × 東山彰良 | 小説丸 (shosetsu-maru.com)

 

さらに言えば、作家10周年の企画『1と0と加藤シゲアキ』を出した理由についてもこう語っている。

「作家で10周年って、本のオビで謳ったりそのテーマで受けた取材記事が出たりすることはあるけれども、大々的に仕掛けるようなことってまずないですよね。でも、ジャニーズって周年イベントをめちゃめちゃ大事にするんです。“周年で派手な祭りをせずしていつする?”という文化の中で育ってきたし、ファンの人たちが喜んでいる姿も目にしてきました。だから、やらないという選択はないな、と。」

加藤シゲアキ「10年前の自分に言いたいです。あの時書き始めてくれてありがとう」『1と0と加藤シゲアキ』新刊発売インタビュー | ダ・ヴィンチWeb

 

だから加藤シゲアキもまたジャニーズ生まれジャニーズ育ちである。アイドルの歴史上初の直木賞候補者および吉川英治文学新人賞受賞者を輩出したのは確かにジャニーズ事務所である。

 

 

では「土壌」に対して増田さんのは何かと言ったら「家」ではないかと思う。つまり血筋によって守り伝えられた伝統・技芸・財産を示す「家」だ。TVnavi SMILE vol.50の増田さんの記述にはこうあった。

俺ね、 アイドルってすごいなって思うんですよね。 なんでもやれなくちゃいけないんだなって思う。/自分的にはアイドルにちゃんと誇りを持ってるつもり。 /それにね、この事務所にいる以上、アイドルだけじゃダメだと思うの。 /ちゃんとそれぞれの分野1本で頑張ってる人と同じ気持ちでそこに向き合わなくちゃ失礼だと思うから。僕達はオールマイティーでいなくちゃダメだと思うからそのチャンスをくれた環境に感謝しているし、努力はずっとしてなくちゃいけないなと思ってる。

 

  • なんでもできる場所だったから、歌って踊ってお芝居して書くことだってできた。
  • その名を背負っている以上、なんでもできるタレントになるために努力し続けなければならない。

2人のSNSの反応は「土壌が変わる」か「この名がなくなる」かの違いだと感じたのだ。

以上が「ジャニーズ」の捉え方に感じたシゲマスの違いである。

みんなきっとそれぞれの帰属意識と誇りをもって努力してきたのだ。当然、努力したことについて恥じることなどは一切無い。

 

 

 

 

そういえば、加藤さんが10月19日に生出演した「ぽかぽか」でサラッと発していた。

「僕らって、色んなことするじゃないですか。歌って踊ってお芝居してバラエティして」

 

僕は色んなことをするんですよ、ではなく、『僕らって、色んなことするじゃないですか』。

今日もあたりまえに話す姿に、つい感情的になってしまった。