生き様を物語に刻む存在

   アイドルとは、物語(Fantasy)によってどこまでも世界を広げられる存在という意味と、人生そのものが物語(STORY)である存在という2つの意味を合わせ持つことができる唯一の存在(人間)であると思っている。それを特に明示したようなグループがNEWSだと思っている──というか、NEWSというアイドルグループからそれを感じた。

 

アイドル 

 

    NEWSは、物語、世界観というものに突出しているグループである。

    本来関連性が無いはずの楽曲たちに、 演出として“物語”を付加することで、アルバムやライブをただの作品群ではなく、導入から終始一貫性のあるひとつの作品に仕上げることができ、かつ物語性をグループ自体の特長ともするのが、文学賞作家をも擁するNEWSの強みであり色である。

    彼ら自身がその主人公であることで、NEWSというグループの解釈や物語に世界の広がりを生み出す。

 これがNEWSの存在方法そのものを映すもののように思う。彼らの作品には解釈のヒントと想像の余地が蒔かれている。想像して色んな物語を思い描くことでNEWSというグループは無限に広がっていくのだ。

 これは、アイドルの神髄であり初期衝動ではないだろうかと思う。

 

 彼らは、『アイドル』とは生き方のことであり、それが本来的に物語を背負い作品になっていくことを熟知している、というかある意味開拓していると思われる。信念や矜恃、平坦ではない人生そのものが、NEWSという魅せる旅路である。

 

 NEWSの主軸であり最大の武器とも言える応援歌は、彼らの選択を証明しようとする生き様やここまで乗り越えてきた人生が曲や歌唱に投影されることで、圧倒的な説得力を持ち、人の心を打つ。

   人生をかけて記憶の景色を最高にすべく奮闘していると彼らは言う。NEWSの生きる物語が多くの人の力となり居場所となり、たったひとつの記憶や歌に支えられて明日もまた頑張れるという人がいるからだと。

 アイドルとして歩むその人生を使って、「ジャニーズのライブって、NEWSのライブってすげーなって思って欲しい」という動機に端を発してつくられる魅力的な「非日常」として強く発露するというのは、正統派でありながら今や希少なグループなのかも知れないと思っている。

 NEWSの作品制作における「物語」へのこだわりの動機について考えてみる。

 

  

 

 

 

生き様という物語

 

「アイドルって、自分という物語を見せるものだと思うんです。作家としてやっていることも一緒なんですよね。だから、自分の中では既に、二足のわらじではなくなっています。僕がやりたのは、自分の人生を使って、魅力的な物語を作る、ということなんです。」

加藤シゲアキ、『波』二〇二〇年十二月号)

 

 

 

  アイドルは、生き様そのものが物語と言える。

例を出そうと思えばいくつも語りたくなるのが性だが、それをコンパクトに知りたければ加藤シゲアキさんのエッセイ集『できることならスティードで』の特に「時空」が最も構造的にも明確でわかりやすいかと思う。

publications.asahi.com

 

NEWSを代表するとも思っている名歌詞

「ああどうか力を貸してくれないか 昨日までの僕よ 共に乗り越えてきたじゃないか」(U R not alone)

になぞらえて書かれたエピソード。無茶ぶりのような企画に挑んだ時、10年前も同じ状況があったことを思い出し、見直してみれば当時の記憶と完成度が違うが、それでもあのときがむしゃらに頑張った自分、そして「あの時のアイツよりはきっとうまくできる」という自信が背中を押したという話。過去の成功体験が今の自分の力になる。まさに、歌詞を真に心に訴えかけてくるあの熱量のひとりだと実感する。逆にこの体験が歌唱に120パーセントで投影されるので、彼らの歌唱があんなに熱を帯びているわけである。リアルの物語に心が惹かれ、明日への力が湧く1作。これが、この在り方がアイドルである。

 

さて、ここではNEWSに物語を吹き込む加藤シゲアキさんの「物語」についてもう少し、わかる範囲で書いてみようと思う。これは、単純に圧倒的に正確な資料が多いと言うこと(そして私が加藤担であるということ)が多分に影響しているが、何より、加藤さんが最も心中を赤裸々に出し、それを作品として昇華させ、武器にまでしたアイドルだからである。自らの物語で頑張れる人がいるかもしれないと気づいた時に孤独を脱し、物語だからできることもあると、その力を振るうアイドルだからである。

 

 

 

自分が劣ってるってことに気づきたくないからヘラヘラしてたら、振付師に「お前はまだ全然NEWSじゃないからな」って言われて。これはまずいなって、鏡の前でずっと同じ曲を練習して、みんなが帰った後も練習して。その帰り道で涙出てきちゃって。それまで目を背けてきた自分を直視しなくちゃいけなくなって。直視したらあまりにも自分がダメなことがわかっちゃって。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』 加藤シゲアキ

 

「俺は足を引っ張ってる。自分は、なんて罪なことしてんだろう。俺がいなければ、NEWSはもっと上にいけるはずって」「メンバーのがんばりを素直によろこべない時期もあって。個々の活躍がグループのためになるってことも頭ではわかるのに」

(Myojo 2012年1月号)

 

自分のことが好きじゃないんですよ。キャーキャー言われている僕のことを好きだって言っている人のことが好きになれないって言うか。「なんでこんなやつのこと好きなわけ?」みたいな。周りからみた外側の自分と内側の自分が違うから、歪んでくるんですよね。

(2023年【加藤シゲアキ】愛が何か知りたくて、僕はこの本を手に取った|#木曜日は本曜日 - YouTube

 

当時の感情を「若者特有のひねくれた感じ」と本人は言う。これは誰しも抱える時期のある感情だろうが、しかし加藤さんに関してはご本人の性格と、特殊な状況が相まって如実に浮き彫りにさせたような気もする。

 

 今振り返っても、当時の僕のタレントとしての能力はひどいものだった。それなのにあの人は僕を一番前で踊らせたり、マイクを持って歌わせたり、ドラマの仕事もたくさん与えてくれたりした。それは彼なりの応援であり、指導であり、僕に自信をつけさせるための教育だったのだろう。しかし彼の思い通りには育たず、どれもなかなかうまくならなかった。なのになぜか仕事は続いて、実力が追いつかないまま僕は十六歳、高校一年生という若さでデビューすることになった。
 おかげで本来身につけるべき自信は虚栄心へと変貌し、気がついた頃には見栄っ張りで愛想の悪い青年になっていた。

加藤シゲアキ『できることならスティードで』Trip.13 浄土)

 

 求められていることに対応できた実感もなく、しかし創業者は彼を褒め、実力とは関係のない(あくまで本人が感じるところでの)デビューが決まった。虚しさだけが積み重なったら、外側の像に対応できない自分を守るにはきっと見栄を張るしかない。

 

 ある時(・・・)彼に尋ねてみた。どうして僕を選んだの、と。
 彼はさらりと「顔」と返した。僕は肩透かしを食らったようで、しばらく呆然とした。それから自分には何もないのだと卑屈な思いが胸のうちに広がった。

 もっと後天的な何かを褒めてほしかった。 容姿は両親からの遺伝の賜物でしかない。 彼には僕自身でも気づいていない才能のようなものが見えているんじゃないかとどこか期待していた。 それなのにあっさりと外見で評価されたことが釈然としなかった。

加藤シゲアキ『できることならスティードで』Trip.13 浄土)

 

 タレントなら「顔が抜群に良い」は最大の武器だとも考えられるのだが、そして単純に顔で選ばたことを受け入れたら楽ではあっただろうが、加藤さんはそういう帰着はできない人だった。加藤さんは、アイドルの価値を、具体的に何かができるか、成果が出せるか、グループに貢献できるかで見ているようだ。肩書きはあるのに居場所は無いから、外と内が白と黒のように違ったから、とにかく見栄を張ることでいっぱいいっぱいになったのではないだろうか。

 

周りの人は色々言ってたんですけど、聞けなかった。言葉じゃダメだったんです。自分が気づけてないから。

いつも周りが敵って言うか、すごい冷ややかな視線を感じてたし、僕自身もそんなに人のことを信用してなかった。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

「なんで俺にはがんばる場すらないんだ」って。でも、どうやったら仕事が来るかわからない。

(Myojo 2012年1月号)

 

 ほどなくして、上手くいかなくなる。デビューしてからは場を与えられなくなる。別のメンバーのファンである女性からは『お前を見に来たんじゃない』と怒鳴られたこともあったらしい。(『ダ・ヴィンチ』2012年3月号より)(ふつうに非常識ですけども。)

 

 

  しかし、加藤さんは辞めなかった。

 

それでも好きは好きだったんですよねジャニーズでのお仕事が。だから辞めるに辞められなくて。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

自分がここに居る意味が分からないなって、自分が役に立っているという実感がなかった。

それでもみんなと一緒にいるのは好きだった

(フジテレビ『とくダネ』2021年3月3日放送)

 

何度も辞めようと思った、と過去をふりかえっては言う。けれど、「足の小指をつままれているように、辞めることができなかった。まだやり残したことがあると思った」(タイプライターズ - フジテレビ)。そして、みんなと一緒にいるのが好きだった。

はじめから一貫して、NEWSや事務所のことを嫌ってなどいない。むしろ胸を張ってここにいる矜恃を示せるようになりたいと思っているように見受けられる。好きになれなかったのは、期待を受け入れられず、大好きな場所に貢献できず、周りを敵視して被害者の感傷に浸っている自身だっただろう。

 

そしてついに転機はやってくる。

 

いちばん、グサッときたのは、“自分の魅力って何?”って聞かれたことだった。
答えられなかった。でも、答えられないから、俺は立ち止まってしまったんだってわかった。

(Myojo 2012年1月号)

 

加藤さんがこの頃の「チカラウタ」として挙げる曲、フラワーカンパニーズの『深夜高速』にはこんな歌詞がある。

壊れたいわけじゃないし  壊したいものもない

だからといって全てに  満足してるわけがない

夢の中で暮らしてる  夢の中で生きていく

心の中の漂流者  明日はどこにある

生きていてよかった

生きていてよかった

生きていてよかった  そんな夜を探してる

フラワーカンパニーズ『深夜高速』2009)

 

加藤さんが当時のことを語った記述を読みながらこの曲に触れると、涙が出そうになる。

  加藤成亮は、まだこの世界への希望を持っている。

 

十年前、周りには多くの方がいたにもかかわらず、私は孤独だった。その孤独は自身の人間性がもたらすものだとは露知らず、誰も理解してくれないと世界を憎み、そうしてまた孤独に甘え、静かで暗い部屋で歪んだ感情を愛でていた。(・・・)

私は自身に問いかけた。いつまでもこうしているのか。(・・・)十年後も、同じままでいいのか。
衝動が暴発したのは、その瞬間だったと思う。書かなくちゃいけない。このどうにもならない感情を、どうにかかたちにしなくてはいけない。

(『1と0と加藤シゲアキ』あとがき)

 

「かたちにする」。とにかくそれが加藤さんにとって一番大事なことだったろだろう。アイドル、ジャニーズとして何かを残したという事実が。

 その手段として選んだのが、容姿に関わらない「小説」だったというのは、容姿だけで評価されたことの反動であると本人の語るところである。しかし一方で、「物語をつくる」というエンタテインメントのど真ん中でもあるというのは感慨深い。これもまた、かつて創業者が琵琶法師や落語家のように、舞台の構想を語って聞かせてくれた時間が影響していると後に本人が語っている(『できることならスティードで』Trip.13 浄土)。

 当然、世間で矮小された「ジャニーズ」が小説を書くことで、断罪される未来は容易に想像できた。それでも、加藤成亮さんはジャニーズとして書いた。衝動はすでに爆発したのである。

 

私は私のために小説を書き上げる!

(『1と0と加藤シゲアキ』あとがき)

 

加藤成亮は書き上げた。

まさに渾身の一撃とも言える作品であった。

 

 

  ここで少し、処女作『ピンクとグレー』の話を持ち出してみる。

 

 アイドルは本来的に「物語」を背負う。ファンは彼らの幸せを願いながら、自分たちのイメージする彼らであることを望む。自由に生きて欲しいと言いつつ、それは結局自分の理想の“自由”だ。

 しかし、この甘美で絢爛で危険な世界に魅せられた人間は、成し遂げない訳にはいかなくなる。処女作『ピンクとグレー』はまさに、求められるがままにファンの理想に飲み込まれたアイドルの話である。

 

 主人公「ごっち(赤)」は芸能界(白)の光に当てられ、ファンの理想像「白木蓮吾」に応えすぎた。ファンの理想像になることは初めこそ彼の鎧になったであろうが、次第に「ごっち」は飲み込まれ、白木蓮吾(ピンク)のみが残った。そしてもう元に戻れなくなり、同時に親友も同じ世界に呼び込みたいと思った彼は、自身の肉体を殺し、自身の物語を親友に託し、彼を有名にさせる、という新たな「物語」を画策する。

 その親友の りばちゃん(黒)も同じ道を辿る。そうなることを望んだのだ。りばちゃんは白木蓮吾の物語を借りて芸能界を生きた。そしてその人格に飲まれていった。「りばちゃん」が死に、白木蓮吾と同じように、河鳥大のみが残った。芸能界(白)の光に飲まれた河鳥大(グレー)は、白木蓮吾(ピンク)を混ぜ合わせることで、河鳥大という「物語」を伴って彼の中で「ごっち」を生きさせようとした。

 

僕に内在する二色は混ざらずに分離したままそれぞれを汚し合い、それら自身を擁護する。それでも僕は強制的に混ぜることでしか、次の新たな記憶を留保する方法を持っていない。

(『ピンクとグレー』p274)

 

  白木蓮吾は河鳥大の手で最期を迎える。

 

君がみた世界に果てはなく、これこそが楽園だ。絶望的に素晴らしいこの世界の真ん中に僕と君は共にある。

(『ピンクとグレー』p297)

 

 この結末をもって、白木の理想の物語は完成した。

 

 この甘美で、絢爛で、絶望的に素晴らしい世界のど真ん中で著者も生きている。おそらく、この物語の2人の芸能人は、どちらも加藤成亮が抱えていたものだった。

  だが、加藤さんの結末はこの2人とは違う。アンチテーゼ的に、自らのアイドルとしての存在意義を刻もうとしているのではないか。何かに抗い、手に入れようとしていたのではないか。そんなふうに感じる。

  ちょうどこの頃、NEWSも危機にあった。本人曰く『ピンクとグレー』はアイドルNEWSとして、最後の思い出作りのつもりだったとも((T^T))。そんな思いも抱えつつ、小説を書けたのはNEWSがあったからだと加藤さんは言う。

 

なぜ、あのタイミングで僕は小説を書けたか。メンバーがいたからこそ書けた。書いているほとんどの時間、つらい。だけど、”NEWSのために何かしたい”っていうその一点だけが支えだった。うまくいかないことをまわりのせいにしてた時期で、だから、メンバーに何も還元できてないってコンプレックスがあったからがんばれたと思う。

 

 作品が出来上がった頃は、NEWSからの2名の脱退が発表された時でもある。この時のあるエピソードを、加藤さんの親友の勝地涼さんが明かしてくれた。

 

勝地涼:2011年の「髑髏城の七人」という舞台に僕が出させてもらった時に、彼が見に来たんですって。その日っていうのが、夜公演だったんですけど、夜の何時かにNEWSから2人脱退するっていうことで4人になってしまうって言うのを世の中に発表するっていう日だったんですね。本人としては凄いいろんな感情の中舞台を見に来ていて、その時に客席で、僕や小栗旬くんが演技をしているのを見て「俺はもうああいうふうにキラキラした場所には立てないのかもしれない」と感じたらしいんですよね。で、みんながアクションとかしているときに「自分は何してるんだろう」という思いをしながら、その日劇場から歩いて帰ったっていうエピソードが僕はすごい好きで、なんかやっぱ···なんだろうなぁ、ちゃんと「悔しい」と思っているというか、その時に泣きたかっただろうし、そういう色んな感情が出てきて、そういう1個1個がちゃんと悔しいとか思ってるから僕は今のシゲがあると思っている。
その時に続けるという選択をしたりとか、カッコイイなって思いましたね。

 

加藤シゲアキ:自分は(グループ存続の危機で)心配されてて、かたや同世代の好きな役者たちは輝いててっていうので、電車にも乗れなくて、1時間くらいかけて歩いて帰った。ネットニュースのレビューとか読んじゃうんですよそういう時。もう散々書かれてて、立ち直れるか分からないけど今はとことん沈んでみようと思いながら、自分がその中で、それでも続けようと思うのか、諦めようと思うのか。その時小説が出るっていう話は決まってたので作家になるっていう選択肢もあったかもしれないけど、「でもプレイヤーとしてお芝居とかダンスもやっぱりやりたいのかもな、俺あっちに憧れたってことは」って思ったんですよ。

あさイチ プレミアムトーク 2023年3月31日)

 

   加藤さんは、ちゃんと一つ一つ悔しいと思えていた。絶望していなかった。そして敢えて沈んで沈んで、沈んだ先の自らの問い「やりたいか」に答えを見つけた。自ら手に入れたのだ。自分を歪ませる外側の自分ではなく、自分の生きる場所としての『加藤シゲアキ』を。同時にそこには矜恃があったと思う。つまりその執筆の目的こそ、色眼鏡を覚悟してでもペンネームではなく実名で出す「加藤シゲアキ」の書く意味であった。

それ(ペンネーム)だと意味がないんです。全然。もちろん作品に自信も愛情もありますけど、正当な評価なんかよりも”NEWSの中に、こんなヤツがいる”って、NEWSに興味を持ってもらうことのほうが大事だから。本をきっかけにNEWSを、小山を、手越を、まっすーを知ってもらえることのほうが大切だから。名前をカタカナに変えたのだって、知ってもらうことを優先したかっただけ

(編集会議 2012年夏号)

 

そして『加藤シゲアキ』は、NEWSとともに生きることを貫いた。

 

 

 加藤さんはこれをきっかけに「性格が変わった。/(陰と陽が)バッとわかれた」(+act mini2012年 Vol.19/12000字インタビュー)という。10年の時を経て加藤さんは当時をこのように振り返る。

 

あのとき、自分は周囲の人間にどうしてほしかったかと思うと、とにかく見守っていてほしかったと思う。
証明や体現は数日ではできないから、とにかく奮闘するので、見ていてくれと。その先で自分は幸せになると誓うし、みんなも必ず幸せにする。
だから目を逸らさずに見ていてくれと。

(シゲアキのクラウド 2022/11/7)

 
 アイドルとは異質な存在である。一人の人間の動きを、普通ではあり得ないほどの数の人間が見ていて、多くの影響や勇気をもらう。まるで、誰かの信仰における神のように。

 しかしアイドルをやっている彼らは人間だ。ふとしたきっかけで、「私たちは、生身の人間の人生を消費しているんだ。」とこちらが辛くなることがある。アイドルは偶像を帯びた人間なのだ。加藤さん自身も、人生が消費されているのはわかっているとインタビューで答えていた。

 でもだからこそだと思うのは、彼らの物語が多くの人に感動を与えたり、逃げる場所になったりする事実である。彼らが痛みをたくさん知っていて、それをどうにかしようとした経験があって、そういうときに過去の自分とか誰かの経験とか、そういった人間の物語が力になることを彼ら自身が知っているからだと思う。

 

振り返ってみると、違う誰かになるとか、なりたいとか、憧れと嫉妬みたいなシーンが必ずあるんですよね。 結局、それは僕個人のテーマかもしれない。自分とは何かと。最初はそうじゃなかったけど、人間を描くのが物語だと思うようになりました。 人間をもっと深く見つめたいし、表現したいとも思います。そのためには自分と向き合わざるを得ない。ただ、自分の垢を人に読ませるようなのはすごい嫌なんですよ。小説を自分を浄化させるための手段にしたくないし、そこを意図して人生を保つために書くべきではないけど、結果的に書くことで救われたことはあって。それは物語の中で登場人物を救ったり、時に苦しめたりすることで、自分が救われてるみたいなところもあるのかもしれない。 これでいいのかなって思うこともいっぱいあるけど、それと同じくらい、俺は面白いもの書いたって思える瞬間もある。その一つ一つが自信になるし、糧にもなります。“NEWS” という物語で主人公を演じるだけでも、常にこれでよかったのか?と、よかったんだ、を繰り返してきたのに、さらに小説という別の世界での表現を求めてしまうのは、僕自身が本や映画を見たりすることで希望を感じ、学びを得て、救われてきたからなんじゃないかと思います。

装苑 2022年 7月号)

 

 物語は力になる。だから、アイドルはカッコよくなければならない。自らの人生に惚れるほどに。その物語で救われる人がいるかもしれないのだから。

そこに加藤さんは気づけたのだろう。

 

自他共に傷つくことになっても、 その選択が正しかったと証明するべく、道を切り開く生き様を体現し続けるしかない。

(シゲアキのクラウド 2022/11/7)

 

そしてその結末は必ず、幸せでなければならない

 

 そう思えたのは、「冷ややかな目線」ではなく「ちゃんと見ていてくれる人がいる」ということに気づけたことが要因ではないか。「加藤シゲアキ」誕生だと思っている。表と内があまりに相違し反発する、そんな孤独からの脱出。

 

本当の自分さらけ出しても意外と楽しんでくれるんだって思って

【加藤シゲアキ】愛が何か知りたくて、僕はこの本を手に取った|#木曜日は本曜日 - YouTube

 

自分の本を実際に売ろうと頑張ってくれている方たちの姿とかを実際に見て、こうやって色んな人たちが応援してくれているんだっていうことに気づけた

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 どうにもならない感情を抱き世界を恨んでいた青年は、自らの孤独を脱した。唯一無二の存在として、自分に期待してくれている人たちをちゃんと認められるくらいの生き方をNEWSに掴んだ。月に3回だった仕事は、10年後、凄まじい忙しさを見せている。

 

 小説を通してファンになってくれた人もいるし、作家のいるグループとして知ってくれた人もいる。もともとは、NEWSのために、と書き始めた。その目的はけっこう達成されたのかな。

加藤シゲアキさん NEWS20周年に「もうケーキですらなくても」:朝日新聞デジタル

 

自分自身で武器を見つけて磨いていく力を持つということ。それがジャニーズアイドルとして長く活躍していくために、どれほど大切な力であるのかを伝える、いまや権威ある文学賞にその名が上がる「一芸を持つアイドル」の筆頭格である。

 作家、加藤シゲアキの存在は、物語性を強く持つNEWSの作品を確固たるものにした要因の一つであろう。特にアルバム内に「Interlude」=短編小説を組み込む構成に関しては。加藤さんは加藤さんが認める「NEWSの加藤シゲアキ」になれたとおもう。

 

あの時、その燃えたぎる闘志のようなものが自身の内側にあることを知り、ひたすらに嬉しかった。私は生きようとしているのだと実感した。つまり私はどこかで、世界に、そして未来に期待していたのだった。

(『1と0と加藤シゲアキ』あとがき)

 

 加藤さんはこの時のことをよく「人生で本当に死ぬ気で頑張れる瞬間は数回しかないと思っていて、この時がそれだった」と言う。そして自分の内側に、かたちにしたいという衝動があったこと、つまり未来に期待していたことを確かめ、ひたすらに喜んだ。その衝動は“矜恃”と言ってもいいのではなかろうか。初めから加藤シゲアキの中には矜恃があった。もしかしたらそのために苦しんだということもあったのかもしれないが「それでもやっぱりNEWSのためだった」と言うように、その景色が、NEWSそのものが大好きだったのだろうと思う。きっともう、とっくの昔から、やめられなくなっていた。

 

逆に小説褒められると、「いやでもオレ、アイドルだし。」みたいな。アイドルとしてのプライドが盛り返ってきて。「だからもう一回頑張るんだ」みたいな。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 

去っていく男の背中を見ながら
星は はたと気づいた。
「ねえ、僕には口がなかったのに
どうして今まで僕と話ができたの」
男は振り向かずに言った。
「初めから君の中に音楽があった
そういうことさ」
星は頷いて 男に大きく手を振った。
そして口を開き、自分のための言葉を初めて言った。···

(Coda - NEWSアルバム『音楽』より)

 

私は私のために小説を書き上げる!(『1と0と加藤シゲアキ』あとがき)

 

 自らの選択が正しかったということを証明する。そのために奮闘。体現する。人生をかけてそれをやるというのは、とてつもない。だがそれを生きる『NEWS・加藤シゲアキ』は、加藤さん自身がNEWSで生きるために「何者かになりたい」と奮闘し、気づき、成し遂げた証明である。

 

表と内が相違する孤独からの脱出。加藤成亮から加藤シゲアキへの再構築が果たされた。

 

 だから、その生き様の先で幸せになると誓ったとき、

自分はそう思って、作家業という新たな挑戦とともに男性アイドルとしての矜持も離さないと誓っていた

(シゲアキのクラウド 2022/11/7)

 

 これは加藤さんに限った話ではない。平坦では無い「物語」にヒーローは生きる。彼らは生きている。オフロードの乗り心地の悪さと共に得られるかけがえのない快感を、彼らはすでに知っている*¹。異常な辛さが襲うこともあるだろうに、それでも「目を逸らさずに見ていてくれ」と言うのは、彼ら自身が、NEWSという物語に惚れ込んでいるからだと思う。惚れた物語は生き抜いて、結末は必ずハッピーエンドにしたいと思うのではないだろうか。そのためなら腕をふるいたいと思うのではないだろうか。

 

僕ら自身もNEWSでありながら、NEWSのファンですから。

加藤シゲアキSORASHIGE BOOK 2022年5月15日)

 

たくさんの人が、そして誰よりNEWS自身が大好きな「NEWSの物語」を、これからも紡いでいける矜恃と資格を内側に持つのは、彼らしかいないのだ。

 

···そして口を開き、自分のための言葉を初めて言った。

「これからも歌い続ける。
僕の内側に、音楽がある限り。」

(Coda - NEWSアルバム『音楽』より)

 

 

 

非日常の物語

明日オーディションがあるんだって言われて「やだよ!」って、カッコイイ男の子たちの集団だって分かってたから、え!俺が?みたいな。オーディションが楽しくて、その日からガラッと人生が変わって。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)


 増田貴久という人は、アイドルの中のアイドルだと思っている。「外で歩いている時リラックスできるか」と聞かれたら「気にはなるけど家の中でも外でもいつもNEWS増田貴久っていう気持ちだから普通」と答え、「アイドルとは」と聞かれれば「俺。俺は、NEWS増田貴久はアイドルだけど、お前もお前もアイドルでしょっていう中に入れられるのは嫌」と答える。そんな増田貴久の人生が始まった瞬間、アイドルになった瞬間。ここでは、ステージ演出と衣装を担う増田さんが憧れた「アイドルにできること」と、その「動機」を中心に考えていく。

 

 1998年最後の日、目まぐるしい日々の中で、少年は「アイドル増田貴久」の原風景に出会った。

 

本番中に振り返った時に一瞬、ぶわぁーってお客さんがいて、ここにセットがあって、KinKiの凄さは知ってるけど、KinKiってすごいんだって。

 

なんでこんなにたくさんの人が、ここの同じ時間に集まるんだろうって。不思議に思ったのがすごい衝撃的で。なんでこんなにたくさんのがここに集まるんだろうって。その感覚が未だにあるから、感謝の気持ちっていうか、当たり前じゃないんだなって思う。すごいんですよね、ここから見る景色が。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

増田さんは、常々、聞かれれば必ずこれを答える。ライブドキュメンタリーでもMCでも音楽番組でも必ず。すべては人のパワーだ、と。

 

お客さんも、自分たちがそこにいることがすごいことじゃないですか。「こんなに人が集まるんだなーNEWS」とか、人のパワーがそもそものいちばんの演出というか、一番でかいパワーが人のパワーだから、僕はいつもピュアな状態でコンサートに望んでいると、一人一人が色んな感情でいろんな思いでここに集まって、みんなが見てくれてるっていうパワーに、ピュアな自分が震えちゃって、嬉しさの感情とか驚きとかでパニックになる。色んな人のパワーを受け止めようとしてるんだけど受け止める容量を超える。
だってすごくないですか?地元の友達とご飯行こうって言って、2, 3人でも集まらないですよ。2, 3人で予定合わないような中で、ツアーで色んなところ回らせてもらって、それぞれのところでこの日っていう日があって、僕らもそこにスケジュールが合って、みんながそこに合わせてくれて会えるって、奇跡じゃないですか

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 このStrawberryの初回版ドキュメンタリーは、毎回ハッとする。そう、どっかいこうって言って2, 3人でも予定合わないのに、コンサートには何万の人が集まる。これたしかに、奇跡なんだ。コンサートって人が集まるものだけれど、増田さんのなかにはずーっと

「なんでこんなにたくさんの人が、ここの同じ時間に集まるんだろう」

があって、増田さん自身がずっとその奇跡に感動しているんだろう。

  増田さんがライブで泣く時の様子は、「ピュアな自分が震えちゃって」という表現が的を射ていると思う。体全体で泣いているように見えるのだ。実際に人の思いが一点に集まった威力に奮わされて涙が溢れているように見えるのだ。

 

みんなが俺らのやりたいことを理解してくれて協力してくれる。これは凄いこと。

(NEWS LIVE TOUR 2020 STORY初回版『Documentary film of (NEW) STORY』)

 

 そして集まるというのは物理的なこと以上に、大勢の人の意思が同じ方向を向く、自分を理解してくれている人がこんなにいるということが当たり前では無いことをわかっている。

 

誰かが見てくれてるって思えるだけで100倍くらいの完成度をめざして頑張りたいと思う。

(NEWS LIVE TOUR 2020 STORY初回版『Documentary film of (NEW) STORY』)

 

 だからこそ、その奇跡の瞬間に披露するものには命がけで取り組まなくては成らない。多くの人に、自分が感じた「凄いコンサート」を知って欲しいから、心を打ち震わせられるほどの人の思いが集まる場なのだから、かならず期待以上のものをつくってNEWSのコンサートに責任を持たなければならない。

 

好きなんですよね、コンサートが。見るのも、作るのも、出るのも、関わるのも。お客さんがお金払って、一年に一回の楽しみを、NEWSのコンサートを選んでくれて来てくれる方に対して、僕はほんとに命かけて、なんの妥協もしないし、ほんとにそこにだけ、その時間にだけ集中して、全部を注ぎ込んで作んないと、やる意味ないと思う。というかやっちゃいけないって思う、ぐらい、本当に責任重大。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 

 1回目見た時の衝撃を(その人の)人生に刻み込みたい

(NEWS LIVE TOUR 2020 STORY初回版『Documentary film of (NEW) STORY』)

 

 増田さんは、自らが衝撃を受けた「非日常」を刻もうとしている。その方法は、やはり原点だと言えるだろう。

 

いまだに火とか、水とか、飛ぶとか、ちっちゃい頃に先輩のバックとかもそうだし、コンサートでできる、非日常の体験ていうか、視覚的に「火出てきた、水出てきた」とかって、やっぱり多い方がいいし、どんな風に使ったら面白いんだろうなってことはいつも考えてますね。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 精神も方法もベースも伝統芸能的でありながら、その粋を結集して驚くような最高の記憶をつくる。非日常の景色、別世界。

 これは主観であるが、その傑作たるシーンはNEWS LIVE TOUR 2017 NEVERLANDのオープニングだと思う。後にも度々インタビューや振り返り映像で取り上げられるシーンであり、増田さんがすべてを注いだ演出である。

 

 

 東京ドーム史上最も水を使った、妥協しない壮大な演出と発想が可能にしたのは、ファンタジーの具現化であった。

 増田貴久さんの大発明「メインステージに手押し車で汽車を走らせる」というワクワクする演出は、ファンタジーの世界観を強めた。(映像ではなく質量が存在することが大切だった。)この大がかりな演出を、その場限りの現象にせず、何十倍にもその価値と記憶の規模を広げていくのは、「物語」だ。

 その壮大な物語を紡ぐうえでNEWSには最強のカードが、ベストセラー作家・加藤シゲアキがいたというのも運命的で面白い。NEVERLAND(を発端とした四部作)はNEWSがメインキャストで、様々な設定がある。なかでも好きなのはNEVERLANDが国の体裁をなしており、メンバーそれぞれにアイコンがあったことだ。

  • 加藤さんは「光」のエリア・North Gate・手に持つのは「国旗」
  • 小山さんは「水」のエリア・East Gate・手に持つのは「ステッキ」
  • 増田さんは「音」のエリア・West Gate・手に持つのは「刀」
  • 手越さんは「炎」のエリア・South Gate・手に持つのは「松明」

(こうなると、まずNEWSというグループ名から運命的なものを感じる。)

 ステッキは権威の象徴・非戦闘の証、国旗は国の象徴・忠誠の証・大衆を導く存在、刀は矜持・(自衛が転じて)平和、松明(炎)は人類の力・聖なるシンボルだろうか、など観客の想像は膨らんでいく。彼らの作品には解釈のヒントと想像の余地が蒔かれている。観客が想像して色んな物語を思い描くことで、NEWSというグループは無限に広がっていく。人の思いは最大の演出である。

 もうひとつ、NEWSのライブはその前に発売されるアルバムと連動したものである。配信が台頭した時代において「CDアルバムである意味」をNEWSは毅然と示してくる。つまり前章でも触れたとおり、脚本があるのだ。Interludeを附して、小説やオペラのような構成を軸に楽曲が収録されている。楽曲を線で結んで物語を構成することができ、そしてそれが物理的に手に取れることが大切なのだと感じる。

 そしてInterludeで導いていく形がはじめて生まれたアルバム「NEVERLAND」の初回版にはNEVERLANDの鍵が入っていた。

 

 これは、たしかに物語が存在する証である。同じ理由で汽車は映像ではなく手押し車で“そこにある”ことが大事だったと思う。NEWSのつくる物語は、突出して神話的であると思う。グッズは物語(二義的な)の構成品である。彼ら自身の物語が多くの人に感動を与えたり、逃げる場所になったりすること、彼らの作る美しい世界が確実に存在するという鍵、現実との結節点が手元あるいは記憶にひとつあるだけで、また頑張れる誰かの明日があること、NEWSはそれをわかっている。

  まさに、空想上のおとぎばなしではなく、リアルでファンタジーをやるアイドルの意義である。

 

毎日過ごしてて嫌なことあったら、NEWSのことおもいだしてよー!みんなにはNEWSと、チームNEWSがあるから。ひとりじゃないから。
みんな、一緒に幸せになろうね!
今日溜めたパワーで、明日から頑張れよー!
次会う時まで、幸せでいてください。
皆さんの大切な、大切な時間をありがとうございました。

(NEWS LIVE TOUR2022 音楽 宮城公演 小山慶一郎 / NEWS1st EP『音楽-2nd Movement-』初回盤Bに収録)

 

 「NEWSのコンサートって凄い」「ココ最近でいちばん良かったよ、NEWSのコンサート」「こんな演出見たことない」とか、そう思って欲しいし、普通の生活で嫌なことがあって、逃げ出したい、でも自分はこの世界しか知らないって人が来てくれた時に、こんな楽しい世界もあるんだって思ってくれる機会になるかもしれないし、みんなに少しでも幸せになってもらう、楽しんでもらうってことが、夢ですね。

(NEWS 15th Anniversary LIVE 2018 Strawberry 初回盤映像特典『ぼくたちの、原点』)

 

 

 アイドルの特別性、神秘性はそのためにあるとさえ思う。具現化したファンタジーを生きられる存在はアイドルしかない。NEWSはそれを完璧に形にしている。記憶のその姿と景色を最高のものにしようと奮闘している。舞台に生きる人間のありかたである。

NEWS増田貴久は言う。

 

 お客さんがコンサートの帰り道に、あるいは何年か後に、ステージ上のNEWSを思い起こした時に頭に浮かぶ僕らは、きっと何かの衣装を着ていると思うんです。だから、NEWSの記憶として残るその景色と、そこに在る僕たちの姿に責任を持ちたいんです。

(『装苑』2017年9月号「増田貴久が手がけるNEWSの衣装」)

 

 

物語を刻む

 

『U R not alone』と言う曲がある。

 私は、はじめてNEWSの歌唱姿で歌の力を知った。2017年7月15日放送 TBS「音楽の日」、楽曲は"上手"と"伝わる"は違う、"技術"と"説得力"は違うということを明確に感じた。歌う姿をみて、これが歌の力かと「心を揺さぶる」ということかと雷に打たれたような衝撃を今でも覚えている。かつて音楽の力に影響された体験もなく、アイドルのことは矮小化すらしていたし、そもそも疎すぎてNEWSというグループや彼らがジャニーズ事務所所属であるということすら知らなかった。関係なかった。たった一回、たった一曲(しかも短縮バージョンだった)で明らかな衝撃を受けたのだ。

 

拝啓あの日の僕へ

今はココで立っています

誰かに笑われた夢を

今もココで見続けてます


***
例えばこの声が届くならば誰でもいい

聞こえますか

胸張ってさあ叫ぶんだ

全部詰め込んだこの宣誓を

僕は誓うよ 一切引かないし 一切負けない

自分で決めた道のうえ

全てをかけて笑えるように

やり抜くぞ


***

確かな答えは

何処にもないから探すんだ

恐れないでその足で迷っていい

何度も諦めるかって言えばいい

今までの超えた日々が僕らにはあるじゃないか

だからこそココに吹いてる

向かい風にホラ立ち向かう


***

ああどうか 力を貸してくれないか

昨日までの僕よ

共に乗り越えてきたじゃないか

僕は誓うよ 一切引かないし 一切負けない

生まれた日から今日までの 僕が見てる

明日もそう少しずつ前へ not alone

NEWS / U R not alone  作詞・作曲 GReeeeN

 

 

「拝啓あの日の僕へ 今はココで立っています」「今までの超えた日々が僕らにはあるじゃないか」「昨日までの僕よ 共に乗り越えてきたじゃないか」

もう何も言うことはない。ここに全部書いてある。

 なにかを成そうとするあらゆる場面で失敗はする。だが、今まで起こった全てを超えてきたのは間違いなく自分だ。この考え方にグッときた。どこかで頑張った過去の自分がいる。その事実がいまの自分としてあるだけで、頑張る理由になる。そしてその結果訪れる未来に納得するために、踏ん張ってみる価値はある。

 この圧倒的な楽曲を説得力を持って訴えられるのがNEWSだ。

 本当に命を削るように、魂で奮い叫ぶように歌い上げる姿、そこにある熱量は本物だった。ただのパフォーマンスではなく、これは人生の道しるべになると思う空気があった。まさに、NEWSというグループの歴史や矜持が投影されていたからだと思う。

 

※ここからは特に個人的な見解が含まれます。

 

 彼らNEWS 3人の矜持が分かりやすく示されたと感じたのは(本意とは言いがたいのだが)ジャニーズ事務所のCOVID-19感染拡大防止支援活動「Smile Up! Project」の取り組みの一つとして行われた「Johnny's world Happy Live with you」のLIVEの3日目、2020年6月18日に歌唱された『U R not alone』だった。ステージに立っていたのは小山さん、増田さん、加藤さんの3人だったが、この日までNEWSは4人だった。1名の退所が発表されたのは翌日のことである。

 この日は、(特殊な構成の『クローバー』は除き)U Rも含めて披露する楽曲について不在の1名のパートは増田さんが歌っていた。だが終盤、U R not aloneの多サビ前の印象的なソロパート「あの日つまずいて しゃがみこんでしまうほどの痛みさえ」だけは、”敢えて” 誰も歌わなかったのである。

 

「4人目」の存在を示した3人の選択は、NEWSというグループの在り方に誠実だった。2020年6月18日まで、NEWSは4人だった。だから4人で歌った。きっとそれは当然のことであり、4人時代をちゃんとやり遂げようという "3人の選択" だったと思う。だからあれが、4人のNEWSが最後に歌った『U R not alone』であったと思っている。そしてあの時、NEWSは 3人になった。と思う。選択を下した "NEWSの意思" "矜持" の息吹は3人のなかにしかない。そういう意味で言えば、もっと前からそうだったのかもしれないが、とにかく明確に見えたのがあの瞬間だった。

 つまり何が言いたいかというと、その時の "NEWSの意思" が楽曲として、ステージとして、その瞬間の歌唱姿として可視(聴)化されているということである。ゆえに歌詞が説得力と熱を持ち、ステージが毎回違う感情を持ち、それが人に記憶され、積み重なったものが生き様となり、生き様がさらに作品の核となる。つまり、こうして生きている。彼らの歌唱姿は物語でありながら生きる姿そのものであると感じる。これがショーに生きるアイドルグループのあるべき姿ではないかと思う。

 

    だからこそ「NEWS EXPO」に感嘆した。

 20周年を迎えた3人のNEWSは、物語の中でも歌唱の中でも以前以上に「生きる」を色濃くしていく。NEWSという人生を謳歌し、没頭している印象がある。だからこそ、ここにきて「NEWS EXPO」には、これまでとは違うものがあった。本来関連性が無いはずの楽曲たちに、 演出として“物語”を付加してきたこれまでの四部作や『音楽』と違うのは、増田さんが20周年の軸として最も強く感じたという、

『そもそもあの日、僕たち3人が出会ったことが奇跡』

『この人生でよかった』

『この人生を選んだことがすべて』

という想いに、全く別々で制作されたはずの音楽のほうから自然に、一貫してこのメッセージを成しているということである。点を繋いで線とするというより点が集まって大きな球となるように、音楽のほうから彼らは最初から主人公だったのだと、彼らを押し上げている。

 

『この物語の主人公に告ぐ。

あらゆる可能性があった。

だけど僕らは、この運命を選んだ。

We  are    NEWS』

 

アルバム中、『Different Lives』『We are Team NEWS』『劇伴』は特に明確にメッセージを示していたし、ライブの最後を締めたのはこの3曲の歌詞からの引用だったわけだし、ドリフェスでもオリジナルアルバムからこの3曲が披露された。3曲が同じアルバムに入ってメッセージを構成していることだけでも凄みがある。(そのうえベスト盤に3人の『U R not alone』も入っている。)

「残された3人ではなく、選ばれた3人」という表現があるが、そういうことでもない。敢えて言うのではなく、ライブの最後に示された上記の言葉が全てだと思う。NEWS EXPOは、物語性・人生・信条といったものが溢れるアルバムとして、そういうアルバムができたということも含めて、アイドルグループが作る作品としての……アイドルとしての人生の刻みかたとしての最適解が導かれたのだと、感銘を受けたのである。

 

続く

 

urnotalone.hateblo.jp