【文字おこし全文】加藤シゲアキ 第42回吉川英治文学新人賞受賞記者会見

 

 

少しは恩返しできたかな

 

第42回吉川英治文学新人賞受賞記者会見  2021年3月2日 都内ホテルにて

 

>それでは最後になりますが、『オルタネート』の加藤シゲアキさん、どうぞよろしくお願いいたします。(進行 木所隆介・講談社広報部長)

 

 よろしくお願いします。加藤シゲアキです。えーそうですね、今の気持ちを言うとやっぱり率直に驚いています。本当に光栄な機会を頂いて、びっくりしつつも今だんだんと実感がわいてきて・・・“やっぱうれしいよな”と、思ってます。先ほど、選考委員の伊集院静先生とも少しだけお話をさせて貰ったんですが、「こういうときはとにかく喜べ」と仰ってくださったので、今はほんと、頑張って喜ぼうかなと思ってます。
 僕は、ジャニーズ事務所のタレントという立場で、小説を書いたときもそういった“話題”で書かせていただけたのかなと思っております。それはすごく光栄なことだったんですが、ある種のコンプレックスみたいなところもあって、ふつう一般的な作家のかたはおそらく新人賞などを受賞してから作家生活をスタートさせると思うのですが、僕は横入りしたような感覚があって・・・それでいてしかしながら、文芸界と言いますか出版社や作家の方がすごく温かく歓迎してくださったということもすごく感謝していたので、今回、吉川英治文学新人賞を頂いたことで少しは恩返しできたかなと思っておりますし、ここがスタートかなと、すごく今思っております。

 あ、そうですね、それがちょうど『ピンクとグレー』というデビュー作が、出版したのは2012年だったんですが、執筆時はちょうど10年前でした。2月の半ばから3月末に書き上げたのが初稿で、忘れもしないその間に震災があったりとか・・・しましてすごく自分としても強烈な季節というか時間だったんですけど、そこからほんとにまあ振り返ってみれば長い作家生活だなとも思うんですが、それでも10年間やめずに続けてきたことが今に結びついているんだなと思うと、10年前の自分を少し褒めてあげたいなという思いもあります。

 

>加藤さんどうもありがとうございました。それではみなさんご質問を頂戴したいと思います。

 

もう甘えられない

 

共同通信社のタカハシと申します。ご受賞おめでとうございます。今も仰っていたとおり、前回直木賞の候補になられたときもやっぱり「引け目を感じていた」、要は文学賞を獲らないで作家デビューしたということに対して引け目を感じているというようなことを仰っていました。今、実際に文学賞を受賞したということでご自身どのように思っていらっしゃいますでしょうか。あともうひとつ、先ほど重松先生が「伸びしろがある」ということを仰っていました。今後どのようなことをモチーフに、あるいはどのような作家になっていきたいとお考えか教えていただけますでしょうか。

 

 そうですね、まぁまだ1時間前に聞いたばかりで、あまり受賞できるかどうかってものを意識しないようにしていました。それはあの(笑)、直木賞の経験もあるので、ある種気楽に待っていようと。そのあとのことは心が動くままに感じようと。直木賞のときもやっぱりそのように思っていて、受賞できなかったことは残念だったのですが、自分がもう書きたくないと思うのか、悔しいと思うのか、どうなるんだろうということをすごくその日、翌日も考えていたんですけど、まぁ色んな選評やお話を聞いて・・・やっぱり悔しかったですね。でー、だったらこんな作品を書いてやろうというのをすごく頭の中で、ぐるぐると想像を膨らませたりとかしていたので。ただまあこのような吉川英治文学新人賞の候補になったというのも、その日だったかな?、受賞できなかった日におそらく聞いたんだと思うんです。そういったこともあって、またじゃあその時はどう思うんだろうと。本当に自分が幼い頃から読んできた作家の方々、選考委員の方に読まれるという緊張感もあってどう思うのかというところも思っていたんですが、今受賞した心持ちでいうと本当に、これはもう甘えられないなと。今までもプロの意識では・・・プロ意識のつもりで、プロだという自覚を持って書いていましたが、これはもう、周りの人も、もう甘やかしてはくれないだろうと。「伸びしろ」という言葉は新人のあいだしか、おそらく言ってもらえない。すごい緊張感を持って今後作家生活スタートさせないといけないなと言うところで、ワクワクもしていますし、恐ろしくも感じています。

 直木賞落選した日からも、自分はこの先どのような作品を書きたくなるんだろうっていうことは、ずっと考え続けていて。明確な答えが出ているわけではないんですが、僕はこの『オルタネート』で長編は・・・まあ短編集いれて6作目なんですけど、毎回「以前やったこととは違うことを」というつもりで書いてきました。今回も群像劇だったので、たくさん登場人物が出る作品ではあったんですが、次はもしかしたらそうではなく、一人の主人公の物語を、そして深いところ、なにか・・・触れたくても触れられないような、そういったテーマを頑張って掘り下げてみるっていうところにチャレンジしたいなという思いはこのところ膨らんでいますね。

 

 

責任をもってやり続けることが、この世界への恩返しになる

 

日経新聞のカツラと申します。このたびはおめでとうございます。先ほど重松選考委員の言葉の中で「書かずにはいられないものを感じた」というふうに評した選考委員がいると仰っていたんですが、加藤さんにとって書く原動力、書かずにはいられないものっていうのはどんなところにあるんでしょうか。

 

 んー・・・簡単に言えないかも知れないんですが、初めて小説を書き上げたときの、それこそ10年前の達成感というものはすごく今も鮮明に覚えています。しかし、自分がいざ出版するとなった時に、おそらく厳しい意見をたくさん聞くことになるだろうと。それは自分がタレントという立場で小説を書いたということで、ある種のステレオタイプなものに、色眼鏡みたいなものに晒されることで、かなり怖かったというか不安があった。発売日の夜「これは辛い朝が来てしまった」と思ったのをよく覚えているんですが、その後にでも多くの読者や書店員の方や作家の方が、個人的には意外にも暖かい言葉をかけてくださったんですよね。なんか、あの···“世界は意外と優しいな”と思った記憶があるんです。今日もまたそれを思ったんですけど、その時に感じた優しさというか、みたいなものに恩返ししたいっていう気持ちはすごくあります。『ピンクとグレー』で書店回りをした時に「この作品は面白かったし、加藤シゲアキという作家を応援したいけれども、書き続けないと応援できないからね」という激励の言葉をある書店員の方からもらって、「あ、そうなんだな」というのもすごく思ったので、書き続ける限りは、書き続けなければ、1度作家になったなら、それはもう責任をもってやり続けよう。それは暖かくこの世界に迎えてくださった文芸に関わる皆さんへの恩返しにもなるだろうという思い、が、半分。
 あとはもう素直に、“書きたくてしょうがない”っていう感覚·・・なんですよね(笑)。書くことがきっと好きなんだと思います。書いてる時間は苦しいことも辛いこともたくさんありますけど、それでもやっぱり、次どんな話を書こうとか、次どういうテーマにしようとか、次のシーンどうしようかってことをもう、考えるようになって本当にもう10年経ったので、もうやめるということができなくなってしまったという(笑)、そういう体になっちゃったなっていうところが実感としてあります。

 

>ありがとうございます。

 

 

小説を高尚なものにしたくなかった

 

>読売新聞のイケダと申します。このたびはご受賞おめでとうございます。2つお聞きしたくて。今回NEWSの加藤さんが、文学の新人賞を獲られたということで、今まで本を読んだことのなかった若い世代も本をとるきっかけになるような気がするんですが、そのあたりなにか期待とか思いなどありましたらお聞かせください。

 

 昨年末から『オルタネート』は文学賞のことでとても話題にしていただく機会が多かったんですけど、それは本当に意外だったんです。というのも今作を書く目標というか、なんのために書くのかというとやっぱり自分のような立場で小説を書かせて貰うなら、若い読者に本を読むという楽しみを知って欲しいという思いが強くありました。やっぱり僕も小説を何冊か出させてもらって、「加藤くんの本読んでみたいんだけど、僕は私は本読むの苦手なんです、すみません。」と言われたことが、もう数え切れないほどあって、「あ、もったいないな」って思った気持ちもありますし本を読むことはとても楽しい経験にもなるし、きっとおそらくその方たちは「本て難しい」とか、そういった感覚?「楽しみ方が分からない」そういった経験をしてしまったが故に、そういった壁みたいなものを作ってしまったんじゃないかなと。であれば自分は本を読む純粋に楽しいという感覚を、若い方に楽しんで貰えたら嬉しいし、その読書体験の中でなにか自分を見つめ直したり共感したりテーマを深く考えてみたりっていうことをしてもらえれば、これ以上嬉しいことは無いなと思っていました。なので本当に若い方に、登場人物も高校生っていうこともありますし、そういったかたに読んでもらうという前提で書いていました。小説はとっても素晴らしいものだけど、僕個人の作品に関しては、小説を高尚なものにしたくなかった。“もっと気軽に手に取っていいんだよ”っていう気持ちで書いたんです。なので文学賞にノミネートされるということがとても意外だったんですが、まあこういった機会でおそらく10代の僕のファンの方はこれを機に吉川英治文学賞・文学新人賞などを知った方がいると思うんです。まあそれだけでも少し、やってきて良かったなというか、恩返しできてるなという気持ちに今なってます。

 

>ありがとうございます。あともう1問、この作品の中でAIが男女の相性を判定してっていうそのアプリみたいなもの「オルタネート」というアプリが作中に出てきますけれども、もしそういうアプリが現実にあったらご自身使ってみたいと思います?

 

 どうですかね(笑)。僕はきっとやらなかったと思います。あんまり人とコミュニケーションを積極的にとるタイプではないので。興味はあるけど、1歩踏み出せずに終わるんだろうなと思います。

 

>ありがとうございます。

 

 

願うのは、興味を持って貰うこと

 

>TBSのフジノと申します。このたびはご受賞おめでとうございます。受賞した瞬間の状況をもうちょっとリアリティに教えていただきたいのと、あと先ほど重松先生のほうから候補作『タイタン』のラストの部分がちょっと不満という、なんか(笑)すごい接戦の中で選ばれたというところで、そこをくぐり抜けて今回の受賞に繋がった感想をお聞かせ願います。

 

(数秒の沈黙)

  あ、えっとー待ち会に関してはご時世なので、ジャニーズ事務所の大きな会議室で編集者数名と、僕のスタッフなど5人くらいですかね、でほんとに大きい、間隔をとって3時半くらいからのんびりと待ってました。それは直木賞のときと敢えて全く同じシチュエーションで臨んだというかたちです。そうすね、これといって特に何かあった訳では無いんですけれども、事務所で。で担当編集のかたに電話かかってきてそれを替わってもらったという形で受賞を知りました。

 

>その時は淡々とという感じだったんでしょうか。

 

 そうですね、あのほんとに直木賞の時に1度ほんとに似たような経験をしていて、その時はほんとにみんなすごくガッカリしていたので、今回もダメだった時のどうやって場を和ませようとか、逆に受賞したらどうやって盛り上げようとかそんなことも考えていたんですけど、受賞したその、携帯の音声がもう漏れてたみたいで「受賞おめでとうございます」って言われた瞬間に、僕はまだその「ダメだった」みたいな顔をして「獲りました〜」みたいなこと言おうと思ってたんすけど、もう先に喜んじゃって、ほんとに(笑)僕より先に編集の方々が、なんかガッツポーズ!みたいになってしまったので、なんか僕が1番冷静な人みたいにはなってしまったんですけど、本当にみんな、喜んでくれました。

 

>そしてもうひとつその接戦を制しての受賞というところで今回受賞された件についてはいかがでしょうか。

 

 ・・・・・・そうですね。ほかの候補作は、僕はまだ実は読んでいなくて、というのも冷静に読めないと思ったので、結果が出てから皆さんの候補作を読ませて頂こうと思っていました。自分と比較することがあまりいいことではないと思ったので。で、まぁあのー、どうですかね、こう・・・小説っていうものに優劣をつけるっていうことはとても難しいことだと思っています。自分が受賞できたから自分の作品がほかの候補作よりも優れていたとは全く思っていませんし、僕のような立場の人間が候補になったことで、いちばん僕の中で願っているのは、ほかの候補作の方に注目が集まったりとか、これまでの受賞作・候補作にも興味を持ってくださることだと思っていたので、そうですね、ここに来ていることはとても嬉しいんですが、どこかで”自分なんて”というか、「本当に僕で大丈夫ですか」という気持ちはあります。具体的なのは選評を読んでから、どこを褒めてくださったのか、それでもどこか至らない部分があったのかというところは選評読んでからじっくり考えたいと思います。

 

 

小説を書いたことで救われた

 

>あともう一点なんですけれども、先ほどからちょっと自身にコンプレックスを持っていらっしゃるところがあったんですけれども、その部分は逆に作品の中で主人公であったり登場人物の細かい心の襞(ひだ)みたいなところはすごく共感できるような形で表現されていると思うんですけれども、ご自身はそのコンプレックスをコンプレックスと捉えているのかそれともメリット、作家としてはメリットとして捉えられているのかという点はいかがでしょうか。

 

 まあコンプレックスは少ない方が良いに越したことはないと思うのですが、そういった自分の中の好きになれない部分を、作品にすることで少し落ち着けることができるというか、咀嚼することができると思うので、僕が『ピンクとグレー』を初めて書いた頃は、まあその地震などもありましたし、すごく20代前半の精神的に不安定な時期でした。ただそういった苦しい感情とか葛藤みたいなものを、小説を書いたことで救われたというのは絶対にあるので、コンプレックスがあるから絶対にいい作品が書けるとは思いませんが、そういった部分も作家になったことで、僕個人の経験としては本当に救われたなと思っています。

 

>ありがとうございました。どうもおめでとうございます。

 

 

歌って踊る日があってお芝居する日があって、書く日があるだけ

 

>リポーターのコマイと申します。おめでとうございます。先程「もう甘えられないな」と仰っていましたけれども、作家・加藤シゲアキとしてこれだけの作品を書くのに、ものすごく取材をしたり時間をかけてると思うんですね。で、そうなるとこれから作家としての時間と、アイドル「NEWSの加藤シゲアキ」としての時間ていうのは、どちらかに重きを置かれていくようになっていくんでしょうか。

 

 よくそういった質問をいただくんですが、まあ「二足のわらじ」という表現もされるんですが、僕は11の頃からジャニーズに入って、ジャニーズのタレントって最初からかなりマルチに色んなことをやるんですよね。歌って踊るだけではなくてバラエティに出たりお芝居をしたり・・・これというハッキリとした「専業」みたいな感覚は僕自身の中には無かったんです。なんでもやることが出来るのがジャニーズのタレントなんだなと。なので、僕の中では作家活動はジャニーズの活動だとは思っていないというか、もっと言うと、どれも僕のお仕事というか、好きなことをただやっているだけなので、どちらかの比重が大きくなるというよりは、今までときっと変わらずに、

“歌って踊る日があってお芝居する日があって、書く日があるだけ”

だと思ってます。

 ただ、今回受賞して多くの方に書き続けてほしいというエールもいただきましたし、まあ自分も当たり前のようにそう思っていますが、スケジュール的にはグループの仕事やタレント活動の空いている時間に書くもの。小説を書くために休みをくれと言ったことはこれまでもないので、これから先もそうなるんじゃないかなと思ってます。

 

>次の構想を少し聞かせていただけるのであれば

 

 そうですね、ほんとに、ハッキリとあるわけではなくて、今回『オルタネート』が話題になったことで青春小説を書く作家だと思われた方も多いのかもしれませんが、この作品は僕の中でもむしろ本当に異例なほうなので、このタッチで続けるかどうかはちょっとまだわからなくて、直木賞の選評が先日オール讀物に掲載されて、ほんとにたくさん色んな選評を見て、ありがたいと思うこともあれば悔しいと思うこともあったのでその悔しいなと思う部分を、「だったらやってやろうじゃねぇか」っていう気持ちも今膨らんでいます。しかし、小説はあくまで読者のためのものだと思っていますので、読者が楽しめる作品ということを前提に、自分が悔しいと思ったその熱を、どういったふうに次に繋げていくかは・・・明日の自分がわかることかなと思います。

 

 

“物語はつくることができる”というのを僕の前で体現していた最初の人

 

>最後に、今その受賞の喜びをいちばん誰に伝えたいですか?

 

 ふたりいて、1人は伝えられないんですけど・・・ジャニーに伝えたいなと思います。僕が11でこの世界に入って・・・この世界というのはジャニーズの世界に入って、“物語はつくることができる”というのを僕の前で体現していた最初の人だったと思うので、ジャニーが・・・うん、あの、物語をつくっていくことを・・・なんかそうですね、常に舞台の話をしていたりとかそういったことを間近で見ていたしそういったことを、それがたくさんのファンを感動させられるということを、僕の前で、見せ続けてくれた人だったので、この場を直接見せられないことは残念ですが、改めて伝えに行こうかなと思います。(時折、言葉を詰まらせる)
 それと、そうですねだから元社長のジャニーさんと、僕に小説を書くように背中を押してくれた、強く押してくれた最初の人は、今の社長の藤島ジュリーなので、ジュリーさんにも、先程伝えましたが、その2人のおかげで自分の作家活動が始まったと思っているのでこの2人には伝えたいと思いましたし、既に伝えてもいます。

 

>ありがとうございました。

 

>加藤さんどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

www.asahi.com

www.youtube.com

www.youtube.com