Narrative ー未完の物語が宿る心象世界からー 加藤シゲアキソロ曲考察

 

今回のテーマは、「完結していない物語 結末のない物語 物語ること」

StoryもNarrativeも直訳は「物語」だがニュアンスに違いがある。Stoeyは "History" が由来で、歴史などの俯瞰で見た他者の物語というケースが多い。対してNarrativeは一人称視点、自分の話。小説がStoryだとすればNarrativeはエッセイ。ライブの「STORY」は定義的にはNarrativeだと思う。終わりがない。

一人の男としてのナラティブは世界で歌ったので、今回は書くという行為について歌詞を書いた。

(以上、本人談)

 

 

Narrativeは加藤さんが執筆するときの脳内イメージを、心象世界を表現しているようです。一音ずれた感じ、和音自体が揺らいだりして脳内にいる感じが表現されています。

 

実際のライブでの演出の冒頭は鼓動音から始まる楽曲に合わせ、心電図のようなライティングで、無気力に座る人型(加藤さん)に命が宿るような演出でした。この演出、「脳波」だと思われますが、私にはこれが「胎児」のようにも見えました。物語が生まれた瞬間の姿であるならば母体の中の胎児にも似ているでしょう。書き手にとって人が生まれるのと同じような感覚かもしれない。

 

 

 

Narrative

作詞・作曲 加藤シゲアキ

 

白雪の上 羽ばたく残像

『小説でいう冒頭部であり、詩のような描写から展開していくイメージ』(本人談)

まだ残像と言うことは、捉えどころのないイメージの段階。

冬鳥の形容で前作「世界」とのつながりを考えるならば、瑠璃三鳥で唯一冬にも見られる「ルリビタキ」か。幸せの青い鳥。また本人曰くルリビタキは「辛い中でも遠くに見える希望」

 

ヤドリギの夢 どこまでも遠く

ヤドリギ:半寄生の灌木で根っこがない。鳥に運ばれて世界を広げることができる。希望(鳥)を待っている。これから壮大な物語になることに思いをはせて。

 

願いを網膜に刻んでく 呼吸の線

だんだん形になってきた。気配だけがある、いや目が開いて光も見えてきた。というのを「願いを網膜に」「呼吸の線」と表す手腕よ←

 

光の輪郭をなぞる夜空の色を教えてくれよ Lord

Lord:神、わが主、キリスト

夜空の光、ではなく「光の輪郭をなぞる夜空の色」→ペンの色

このぼんやりした物語の源をどう書き分けるか、主よ教えてください、と。おそらくこの「主」は著者の中にある。

 

漂う砂 拾い集めて
結ぶ針 紡いでく

執筆のイメージはこんな感じなんだろうなぁ。加藤さんの作品は(舞台の上演台本でも)ひとつひとつの言葉の綺麗さが評価されます。

第66回「岸田國士戯曲賞」受賞予想(落 雅季子×河野桃子)|落 雅季子 - Makiko Ochi|note

この歌詞から伝わるイメージもすごく綺麗。

 

滴る音 インクのカラー
舞い踊る letter

紙に物語を書いている。執筆の様子ですが、「染色」も連想されます。

"滲むゆくえは知らないかたち"

染色:加藤シゲアキ著作短編集「傘をもたない蟻たちは」所収。本作を原作とした舞台「染、色」の上演台本も加藤が担当。第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品。第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品決定 - 白水社

 

Narrative

手繰り寄せる、降ろしてくる みたいな振り付け。

黒い服を着たジュニアが集まってきてここから一緒に踊ります。ジュニアは加藤さんの軌跡や、時々で定まらない姿?

 

ここからドスの利いたラップ部。悲鳴のような音も混じる。

委ねた隙間に生まれた Story
不意に閃き 突然変異に恋し

"Story"なので「小説」のことですね。物語が頭の中で生まれて動いていくのはこんな感じなのかぁ

 

「あなたの風になりたい」

女性のハモが入る。そして意味が無い訳がないカギ括弧「」。著者とは別人の声?生まれた物語自身か、あるいは著者の潜在意識か

 

予定調和じゃ wack like デウス・エクス・マキナ

wack:ダサい

デウス・エクス・マキナ:行き詰った物語を前触れもなく突然解決に導いてしまう手法。大団円、夢落ちなど デウス・エクス・マキナ - Wikipedia

このイメージを大団円なんて安直な方法で決着させられん!

 

Yea Ima Liar Where is sense of wonder?

Ima = I'm gonna = I'm going to:○○する予定

Liar:嘘つき

sense of wonder:SF小説や自然等に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚。SF的な表現手法やアイディア、あるいは強烈なイメージによって、異化作用が特に働いた場合、生じることが多い。センス・オブ・ワンダー - Wikipedia

おい、俺の感性はどこにある!

 

奏でる熱狂 列島絶叫 反動禅問答

熱狂して感情と禅問答している。

「太宰や有名な作家たちの代表作ってあるけど、それは必ずしも本人が思うベストじゃないってことはたくさんあるんでしょうね」っていう2022.3.27放送のタイプライターズ~物書きの世界~ - BSフジでの会話を想い出した。これは俺じゃない、そんな葛藤はつきまとう物なのかも。

 

Ok go your way 自由に叫べ 気の済むまで

 

ラップ部終わり。

重ねた日々がほら 明かりを灯していく

形になってきたようです。

 

ここから加藤さんの動きをトレースし、連写のようにジュニアが一定のコマの部分で止まっていく演出。綴ったものが刻まれていくようです。

 

施す手を傷めてもなおめくるめく運命

物語を書く手が傷ついても、書き続けるしかない。

『「書かずにはいられない」という熱量を一番感じた』という吉川英治文学新人賞受賞時の審査員による選評を思い出した。

 

白雪の上 羽ばたく残像
降り積もる黒滲む 混ざり合うライン

文章になってきたようです。

 

止まっていたジュニアが動き出し、加藤さんの元にゆっくり集まってきます。

 

もてあます衝動 語り尽くせる者
その目で見たものをひたすらにとき放て

衝動を持て余していながら、それを語り尽くせる「主」も自身の中にいるはず。その力を解き放て!

 

「解きはなて」でジュニアが広がっていく。

 

未完成の声届けて ページを開いてゆく
Narrative

まだまだ未完成。書き切れていないし、書き続ける運命。それが僕の物語。

 

手繰り寄せるような振り付け。女声コーラス(叫び)部分で一番強い天井ライトの方を仰ぎながら踊り、最後は降り注ぐライトに背を向けた状態で両手を広げ、舞台から投身。

プツッとすべて途切れたような静寂。

 

 

 

 

かなり神性な感じの演出でもあった。役者が大成しようとする時に舞台上やカメラ前で自殺してそれを成そうとした『ピンクとグレー』を想い出したりもしました。

 

 

ところで、ここからは全体の話ですが

 

NEWSコンセプチュアルライブツアー四部作NEVERLANDEPCOTIAWORLDISTASTORYでの加藤シゲアキさんのソロ曲 あやめ氷温世界Narrative について、

2021.6.13、加藤さんがラジオで「実はソロ曲は繋がってて、Narrativeもあやめに繋がってる(ニュアンス)」とおっしゃってて、どうやらNarrativeの最後の演出があやめ冒頭につながるらしい・・・

 

 

 

同じタイミングで読んだ青山学院大学のインタビュー記事で、Narrative、ひいては全体で示そうとしたのはこれではないかと思うものがありました。

 

life.a01.aoyama.ac.jp

・・・法学部に在籍していた大学時代には、ひとつひとつのテーマに対して真剣に向き合い、考えを深めていく姿勢を身に付けました。それを初めて明確に意識したのは、「誕生するまでのどの段階で、人間としての権利が認められるか」というテーマを扱った授業を受けていた時だったと記憶しています。胎児の段階か、生まれ落ちた瞬間か、あるいはまた別のタイミングなのかという悩ましい問題にも、実は法的な定義があると知り、非常に合理的だと感じる一方、不条理な思いも抱きました。これに関する現行法に強く疑問を持てば、人によっては政治家を目指すかもしれないですし、法律家になろうとするかもしれません。ただ私の場合はそこに物語を感じたのです。・・・

aogakuplus.jp

──法学部で学び得たことはなんでしょう。

・・・「まだ世界はできあがっていない」ということです。最初にそれを実感したのは、「人権はどの時点で生まれるのか、胎児はいつから〝人〟と見なされるのか」といったことに関する授業でした。その定義は法律で決まっているのですが、僕はそれを知ったとき、すごく不条理だけど合理的な気がして、さらにそこに「まだ世界はできあがっていない」という物語を感じたのです。社会の一部を形成している法がまだまだ完成されていない、ということを一番強く思いました。・・・

 

「私の場合はそこに物語を感じたのです。」この物語は、まだ結末を見ていないのだから「Narrative」でしょう。

 

「まだ世界はできあがっていない」という物語 

 

 

環状を成す四作で描こうとしたのはこれではないか。

今回は作家として書くという行為について歌詞におこされたということと、インタビュー記事がオルタネート関連のもので作家として回答している部分のマッチも必然かと思うのです。

 

 

 

 

あやめ

人を定義するボーダーラインは合理的だが不条理。

万物を受け入れられるそれが理想郷(NEVERLAND)だが、まだ世界はそこにたどり着いていない

urnotalone.hateblo.jp

 

氷温

氷と水の間、変わる心、優しい嘘と裏切りは線引きできない

「あなた」と「僕が見ているあなた」、「僕」と「あなたが見ている僕」は違うかもしれないが、ほんとうは僕とあなたの境目さえわからない。

urnotalone.hateblo.jp

 

世界

社会の中でいつしか”自分”の境目さえ分からなくなる。

だが間違いなく、これを構成する「貴様」が「世界」だ。

realsound.jp

 

Narrative

未完成の声届けて ページを開いてゆくNarrative

まだ世界はできあがっていない」という物語―――

 

 

 

 

いずれも未完の物語。まだまだ旅路は続くようです。