氷と水の間、「僕」と「あなた」は線引きできない ~加藤シゲアキ「氷温」考察~

 
氷温
作詞・作曲/総合演出 加藤シゲアキ

Don't believe in me
君を愛して 嘘重ねて

鏡ごしの君
知らない顔をしてる
昨日見た夢を
話しかけてやめにした

グラスのライム香りが鼻で弾けて
ほんの少し正気になって落ち込む
テーブルに落ちてしまった氷が溶けてく
時が止まればと心で願ってる

Don't believe in me
君を 愛して
嘘重ねて 終わりなら oh baby
ドアの音 せめて聴かせて
僕のもとまで届かせてくれよ


君の熱の鈍さが
へばりついて落ちないままで
もしも二度と会えないのなら
月明かりで抱きしめて

Don't believe in me
君を愛して
嘘重ねて終わりなら oh baby
ドアの音せめて聴かせて
僕のもとまで届かせてくれよ
Don't believe in me...

“氷温”

 

 

 

 

実際に加藤さんがお酒を飲んでいる時に氷を落としてまって、その時に「このまま拾わないでみよう」と思ったところから着想を得たという、超絶お洒落エピソードの作品。あの顔面でそれがおこなわれてる空間て何ですか()

 

つまり砂時計ならぬ氷時計。氷が溶ける速度で時間の流れを表現するわけですが、


氷が溶けきらない温度から「未練」が感じられ、それでも戻りはしない氷の姿から絶望的なイメージも出て、別れ際を表現するにふさわしい。無駄のない描写で景色を立ち上がらせる手腕は見事、さすがですよね。大沢在昌氏をして「音楽や自然を形容する表現力は秀逸で、プロ作家としても抜きんでたものをもっている。」と言わしめただけはある。( ¯꒳¯ )b✧※第42回吉川英治文学新人賞受賞選評(小説現代2021年5,&6月号所収)

 

また「グラスのライム香りが鼻で弾けて」について
ジンライムの酒言葉は「色褪せぬ恋」なのですよ。色褪せぬ恋が弾けて正気になったのなら、やはり別れ際、しかも相手に僕が捨てられるような形の別れの歌と解釈できます。

 

 

お洒落。

 

 

 

演出解釈

ライブ演出をざっくりまとめてみます。冒頭左ウイングまで歩いてきた加藤さんが振り返ると、中央ステージにサングラスをした新藤さんが座っているところがライトアップされる。

 

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曲が始まって、銀のハイヒールを履いた新藤さんと、ライトを持ったJrの皆さんが中央で踊り、加藤さんは左ウイングに座ってそれを見ている構図

 

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サビ1の時には新藤さんが右ウイングに座っており、間奏になると2人とも中央で近づいていって、ライト集団(呼び方)の中でポジションが入れ替わって、新藤さんは加藤さんにハイヒールを渡す。

 


サビ2では新藤さんが左ウイングに座り、ハイヒールを持った加藤さんとJrの皆さんは中央ステージで踊る。(つまり、最初と似た構図で人が入れ替わってる)

 

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最後は加藤さんがハイヒールを履いて、ライトに囲まれて「氷温」って言って終わり。(···説明下手か)

 

 

 

さて、ここが「あやめ」と少しちがうところで、

解釈が定まりにくいんですよね。これがこの曲の面白いところだな。(誰)

 

 

 

解釈①


最初のシーン、明らかに「もう1人の自分」の演出なので、これは僕の中に存在する2つの意識を表現しているんじゃないかと思いました。

 

また「君」について
鏡越し、ドアの音、(へばりついた)熱の鈍さ
と、本人の姿があまり見えてこない。既に明確な距離ができていることが伝わってくると同時に、全体を通して「僕」の視点で書かれているんだなぁと思う。

 

 

つまり、

加藤さん=「自我」、サングラスの新藤さん=「盲目の僕」、ハイヒール=恋心

 

とすると、恋心に踊らされ足を取られる盲目の僕が始めのシーンで、
途中で「自我」が盲目の僕から主導権を取り返し、恋心をコントロールする(ハイヒールを持って踊る)

 

という、別れ際における僕の変化の一連の流れを表したのではと。

 

 

 

 

解釈②

しかしこの感じ、小説『ピンクとグレー』を彷彿とさせられる。

www.kadokawa.co.jp

 

 

「同一化」

 

 

そう、実はこの演出で真っ先に浮かんだのはこれでした。

 

 

りばちゃんがごっちを演じるうちに「同一化」がおこる。あれです。記憶さえ混ざる感覚がある。(彼もまた同じ“美学”を理解してしまう、その悲しいラストがあまりに美しい。)(そっちがテーマなんですよぉ~映画!)

 

あの同一視って、自分が他人をなぞるように生きるうちに、他人を自分に取り込むように、あるいは相手に取り込まれるように境目が分からなくなり、成り代わる

 

作家加藤シゲアキお家芸

 

つまり、主人公の意識が相手の女性側になっていく。その目印となるアイテムがハイヒール。一人称が通して「僕」なのは、語ってる意識はひとつということをしめす。(一人称が変わっては「別人」なので)、と考えてみる。

 

「氷温」という温度で示すように氷は溶けきっていないので未練を感じるけど、

「知らない顔をした」のはどちらなのか

「嘘を重ね」たのはどちらなのか

未練を感じているのはどちらなのか

 

「believe in」という強めの表現を使った

 Don't believe in me (私を信じないで)

 これは誰の思いか。

 

実は心変わりして終わりにしようとしているのが主人公で、未練があるのが相手であったかもしれない。

 

 

 

解釈+α 

 Twitterフォロワーさんの、とっても斬新でステキな発想の紹介。(人任せ芸人)

 ①②とは路線が違いますが、こんな解釈あるんか!って楽しくなったので紹介したい↓

 

 

 

まじかぁ!!!

 

すごい!別に私が何か言うことはないです、素晴らしくない!?って言いたかっただけ。「偽りの姿」「切ない嘘」みたいなのが見えるな、うん()

 

ゆいさんありがとうございます!!ステキ!!

ほかにも私はフォロワーさんに恵まれてましてね、文学や思想や世界史に明るい有識者がいらっしゃるんです。私のツイートに返ってきたリプはどれも考え込まれてて、大変助かりました!ありがとう!なんせ今ここで駄文を垂れ流している主の専攻はバイオなもんで(畑違い)

 

 

 

 

結論

 

ずーっとこの結論があやふやだったんだけど、後日なんとなくまとまりました。

というのも、四部作のソロ曲が環状を成しているというような加藤さんのお話と、

おそらく四作で描いたのはこれであろうという、青山学院大学のインタビュー内容を考え合わせることができたので

 

 

aogakuplus.jp

" ──法学部で学び得たことはなんでしょう。

「まだ世界はできあがっていない」ということです。最初にそれを実感したのは、「人権はどの時点で生まれるのか、胎児はいつから〝人〟と見なされるのか」といったことに関する授業でした。その定義は法律で決まっているのですが、僕はそれを知ったとき、すごく不条理だけど合理的な気がして、さらにそこに「まだ世界はできあがっていない」という物語を感じたのです。社会の一部を形成している法がまだまだ完成されていない、ということを一番強く思いました。・・・ "

 

 

 

 

 

テーマは「未完成」だと感じました。

 

氷と水の間、自我と欲望で変わる心、優しい嘘と裏切りは線引きできない

「あなた」と「僕が見ているあなた」、「僕」と「あなたが見ている僕」は違うかもしれないが、ほんとうは僕とあなたの境目さえわからない。

 

 

 

これがおそらく次のソロ曲「世界*¹」に繋がっている。つまりね、最終的に気づいたことなんだけど、

NEWSコンセプチュアルライブツアー四部作NEVERLANDEPCOTIAWORLDISTASTORYでの加藤シゲアキさんのソロ曲

あやめ氷温世界Narrative

について、

 

先日、加藤さんがラジオで「実はソロ曲は繋がってて、Narrativeもあやめに繋がってる(ニュアンス うろ覚え芸人)」とおっしゃってて、

 ってオタク(わたし)は考察したのですよ。ちょうどそこに先ほどの青山学院大学の記事が流れてきまして、これを考え合わせるとまさに

 

 ”「まだ世界はできあがっていない」という物語 ”

 

これでは?!!環状を成す四作が描こうとしたのは!!ということに考え至ったわけです。

 詳しくはこちらで書いたのですが、

urnotalone.hateblo.jp

 これでいくと「氷温」から「世界」には、

 

 

氷と水の間、変わる心、優しい嘘と裏切りは線引きできない

「あなた」と「僕が見ているあなた」、「僕」と「あなたが見ている僕」は違うかもしれないが、ほんとうは僕とあなたの境目さえわからない。*²

 

社会の中でいつしか”自分”の境目さえ分からなくなる。

しかし間違いなく、これを構成する「貴様」が「世界」だ。*³

 

というふうに繋がると思うのです。(紫字の「線引きできない」の要素は「氷温」の前作の「あやめ」から)

 

 

 

あ~考察って楽しい!!!!!!!!

 

 

 

*1 2019年加藤シゲアキソロ曲 (WORLDISTA収録)